『北海道の地震』
信濃毎日新聞(1994年3月20日)の書評

 北海道では昨年、釧路沖地震(1月)と北海道南西沖地震(7月)の巨大地震が相次いで発生した。

 本書は「地震のデパート」といわれる北海道周辺の地震について、被害や発生のメカニズムなどを、震源の位置によって、千島海溝・日本海溝、日本海沖、日本海沿岸、内陸直下型地震などに分けて解説している。

 さらに、昨年の二つの巨大地震の特徴を検証した。北海道南西沖地震は日本海東縁に生まれつつある北米プレートとユーラシアプレートの境界付近で発生。釧路沖地震は、北米プレートとその地下に沈み込む太平洋プレートの境界付近の摩擦によって起きたのではなく、北海道の地下深くに潜り込んだ太平洋プレートそのものが、変形に耐えかね、割れて発生した珍しい地震だったなど、最新の研究成果を紹介している。

(北海道大学図書刊行会・1854円)

『北海道の地震』
毎日新聞(1994年4月4日)の書評

 記億に新しい昨年7月の北海道南西沖地震。改めて予知の間題が関心を呼んでいるが、今度も観測機械が捉えた前兆は北大も気象庁も何もなかった。地震予知はまだまだ研究レベルなのである。しかし、地震は必ずくる、大地震は繰り返すものである。その時にたとえ予知できなくとも、地震についで知っているかどうか、で地震に対する対策も、心の備えも違ってくる。

 北大理学部教授・海底地震観測施設長の島村さんと同助教授の森谷さんによると「北海道は従来、地震が少ないと思われてきたが、実は記録が少なかったにすぎない」という。むじろ、北海道はさながら、地震のデパートで、そのタイプもプレート境界型海底大地震、内陸直下型・火山型・群発地震など、多彩なな形で発生している。

 本書は、21世紀初頭にも始まる可能性があるといわれる北海道を襲うもっとも大きな地震の系列の続発期に備えて、北海道の地震についで書かれた初めての本。1.なぜ、北海道に地震が起きるのだろう 2.北海道の地震の歴史 3.地震はどうやって観測するのか 4.海の地震を追って 5.陸の地震などに続いて予知と防災に迫る。

 定価1854円。北大図書刊行会。

『北海道の地震』
『気象』1994年11月号、気象協会発行
小長俊二氏(元気象庁地震火山部長)による書評

 題名通りに全体を通して北海道中心の話題で溢れている.著着の一人島村は,東大,北大を通して主として海底地震観測測器の改良,開発に力を注ぎ,それを用いての観測から多くの新知見を得ている科学者であり,共著者の森谷も,北大において,陸地での地震観測測器の改良開発に努め観測に用いて来た.この様な二人により書かれた本であるので随所に新測器による地震観測の成果,それにより引出される新学説が述べられている.

 本の構成は7章からなり,ブレートテクトニクスによる地震の一般的な発生原因の説明,その中での北海道周辺の特殊性の説明,北海道の地震観測の歴史が述べられている.日本での観測開始以来の測器の発達過程について詳しく記述され,これだけで日本に於ける地震計の発達史を伺うことが出来る.

 この本の圧巻は何と言っても第4,5章に納められている海底の地震と北海道陸上の地震を追っての所であろう.小型化長期記録化に成功した海底地震計を駆使して,大地震の余震観測や海溝観測に,北海道近海の海溝の複雑な構造や異種の地震を見出だした他にも,太平洋トラフの爆破実験,沖縄トラフ,小笠原海溝,大西洋中央海嶺の北端に当たるアイスランド周辺での観測等から多くの知見を得ている.

 日本海中部地震,北海道南西沖地震と日本海側で相次いだ津波を伴う大地震の後の余震観測で,新しい海溝の存在を示唆したり,地震計を改良しながら長期無人観測に成功し,日高山脈のナゾに挑戦したプロセス等が克明に描かれている.特に最近の北海道周辺の地震について,項を改めて詳しく記述され充実した余震観測から,道内の地殻構造に新しい知見を示している.

 最後に地震予知について触れている.研究が進むに連れて前兆現象の出現は一様ではなくマグュチュード7以上の地震でもそれを把握できていない.現在地震予知を業務として実施しているのはマグニチュード8級の東海地震に対するもののみである.世界的に見て,地震予知は研究レペルであるが地震の正確な知識を持って,地震に対処することの重要性が説かれている.内容は地震学全般にわたり分り易く記述され,一般地震学的な説明も良く,気象学に携わる人も一読の価値があると思う.

この本『北海道の地震』(島村英紀・森谷武男著)の目次

第 1章  なぜ,北海道に地震が起きるのだろう
第 2章  北海道の地震の歴史
第 3章  地震はどうやって観測するのだろう
第 4章  海の地震を追って
第 5章  陸の地震を追って
第 6章  最近の北海道の地震
第 7章  地震予知と防災

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