北海道新聞(1987年6月22日)書評
『深海にもぐる--深海潜水艇ノーティール号乗船記』
島村英紀著
月面到着並みの感動的な大事業

 人類の未知なる世界に到達し、その様子を報告するのを「探検記」と称するなら、この本は、まさに科学者の「深海探検記」である。

 著者(北大助教授)は、地球物理学者として、世界で初めて海底プレートの動きを実測する器械(海底傾斜計)を深海底にセットするために、フランス新鋭の深海潜水艇に搭乗し、北海道えりも岬沖の海溝にもぐる。定員三人の艇に、二人のフランス人パイロットを除くと、乗船できる科学者はただ一人。それに選ばれた科学者として、著者は、深海での貴重な体検と、地球の科学をすすめていく最前線の仕事を語ろうとしている。

 高い水圧のもと、太陽の光もとどかぬまっ暗な深海底で、どのような機能をもった潜水艇が、どのように職務を遂行していくかの解説は、大変わかりやすく、興味を引く。著者が7年がかりで多くの科学者や技術者の協力のもとに開発した海底傾斜計を4000メートルの海底にセットする作業の記録は、失敗したらそれまでの苦労が水泡に帰す一瞬を目の前にしてのものだけに、その冷静な表現の中に異常な緊迫感を感じさせ、感動的ですらある。

 あたかも、人類の月面到着の一瞬を思わせ、まさに深海の探査は、宇宙の探査に匹敵する大事業であることを認識させられるのである。

 そのほか、4000メートルの深海に見た信じられないような竜宮城の世界、フランス人技術者との交流の話など、せまくて寒い潜水艇のなかでの十三時間を中心に語られるこのドキュメントは、小・中学生を対象にして書かれたものと思われるが、一般の大人や大学生の鑑賞にも耐える科学読み物である。

山形由史 札幌自然科学教育研究会会員
(国土社、1200円)

毎日小学生新聞1992年12月1日
未知の世界をさぐってみよう
『深海にもぐる--潜水艇ノーティール号乗船記』(国土社刊)

「人頬に残された未知の領域(りょういき)はどこですか?」と質問されたら、みなさんは何と答えますか? 答えは「海」それもダイバーでももぐれない「深い海」こそ人類にとって未知の世界なのです。

 この本は潜水艇(せんすいてい)で4000メートルもの深海へもぐり、地震(じしん)の震源(しんげん)を調べるための機械のすえつけを行った体験記です。ルビつきなので、小学高学年なら、楽しく読めます。筆者の北海道大学教授(きょうじゅ)、島村英紀先生は、以前、毎日小学生新聞の「知る知るシリーズ」で地震のナゾなどについて解読していただいたこともあるので、知っている人もいるでしょう。

 日本で起きる巨大(きょだい)地震は、ほとんどが深海底を舞台(ぶたい)にしているといわれています。地震を予知したり、日本列島のなりたちのナゾをとくためには、海底を調べなければならないと、潜水艇の技術(ぎじゅつ)をほこるフランスと日本の共同研究として1985年夏に、北海道えりも岬(みさき)おき200キロの海底にある「えりも海山」で調査(ちょうさ)が行われました。

 60000トンもの超(ちょう)高水圧にたえられる潜水艇に同乗し、フランスのパイロットと三人で、小さな窓(まど)からながめた暗黒の世界、マイナス4000メートルの海底で暮(く)らす見えない目をもつ魚やヒトデなどの生物、マリン・スノーの積もった海底の世界、失敗のゆるされない海底傾斜計(けいしゃけい)の設置状況(せっちじょうきょう)、さらに「海溝(かいこう)」とか「プレート・テクトニクス」といった科学用語・・などについても、やさしく解説されています。

 未知の世界と出合った驚(おどろ)きと、科学の最前線を示してくれる一冊(さつ)です。 

(国土社、てのり文庫、六〇〇円)
(渡辺 聖 記者)

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