島村英紀 『ポケット図解 最新 地震がよ〜くわかる本』

(表紙に字がごちゃごちゃしていて、どれが正式のタイトルか分かりにくいのですが、
amazon書店のタイトルは『
最新地震がよ〜くわかる本―ポケット図解 地震予知は可能なのか?』になっています)

『ポケット図解 最新地震がよ〜くわかる本』。 2005年12月10日発行。秀和システム。本文304頁。四六版ソフトカバー。ISBN4-7980-1195-9。1400円+税

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カバーを取り外した中表紙はこちらに。学校図書館などでは(せっかくの)カバーをはがしてしまいます。
この本の図 : 1章6節の図(ゲラ)2章1節の図(ゲラ)2章8節の図(ゲラ)6章21節の図(ゲラ)7章8節の図(ゲラ)
出版後に気がついた訂正(ミスプリント)
「火災保険は地震の"あと"で出火しても支払われませんでした。そして地震保険にはいろいろな問題があります」
(この本の8-12と8-13に加筆したものです)
牧師の嘘:聖職者の言うことだから、と信用できなかった地震学者 (この本の『コラム』から)



この本の目次

前書き

1 地震予知は見果てぬ夢だった
1-1 なぜ地震予知は難しいのか
1-2 前兆を見つければ地震予知が出来る?
1-3 前兆は世界各地で報告された
1-4 日本では前兆が790もあった
1-5 他の場所では前兆が出なかった
1-6 前兆は「自己申告」(
1章6節の図(ゲラ)
1-7 大震法の成立
1-8 あいまいな東海地震の予想震度


2 地震予知のバラ色の夢は消えてしまった
2-1 バラ色の地震予知の夢は消えた( 2章1節の図(ゲラ)
2-2 唐山地震の悲劇が転機に
2-3 前兆による地震予知の壁
2-4 地震予知の方程式はない
2-5 3つある地震の委員会
2-6 「公式の地震予知」の仕組み
2-7 「歪計」による黒白判定
2-8 地震予知の救世主(
2章8節の図(ゲラ)
2-9 地震雲や動物の地震予知は本当か


3 なぜ地球という星に地震が起きるのだろうか
3-1 地球の構造はタマゴそっくり
3-2 プレートは海嶺で生まれた
3-3 プレートが広大な海底を作った
3-4 プレートが日本列島を作ってくれた
3-5 「余った」プレートは衝突している


4 地震とはどんな現象なのだろうか
4-1 地震は不公平に起きる
4-2 プレートが生まれるときの地震、消え去るときの地震
4-3 断層が地震を起こしていた
4-4 どうやって震源断層の動きを知るのだろうか
4-5 プレートをも破壊する巨大地震
4-6 まだある最近の巨大地震
4-7 津波はどうして起きて、どう伝わるのか
4-8 マグニチュードとは何だろうか
4-9 マイナスのマグニチュード
4-10 断層の大きさが地震の大きさを決める
4-11 史上最大の地震だったチリ地震
4-12 スマトラ沖地震は史上2番目の大地震だった
4-13 小地震の連続発生が大地震に
4-14 津波地震という不思議な地震
4-15 「ステルス」なサイレント地震
4-16 地震が起きる間隔は計算出来るか
4-17 本震と余震


5 地震が起きると地面はどう揺れるのだろうか
5-1 3つの地震波
5-2 地震波によって地球の中心核が発見された
5-3 地震波は20分かけて地球の中を突き抜ける
5-4 地震の震源はどうやって決めるのか
5-5 マグニチュードと震度はどうちがう?
5-6 日本の震度は10段階
5-7 初めて分かった「揺れやすい地盤」
5-8 「震度5弱」と「震度5強」の差
5-9 地盤が地震の揺れを増幅する
5-10 深い地盤での地震の増幅
5-11 地震予知から震度予測へ?
5-12 問題を抱えた政府の「強震動予測」
5-13 震源から遠いほうが震度が大きいことがある


6 日本のどこに、どんな地震が起きるのだろうか
6-1 日本は「地震のデパート」
6-2 海溝型地震と内陸直下型地震
6-3 プレートの衝突の現場
6-4 日本海で起きていたプレートの衝突
6-5 日本では4つのプレートが衝突している
6-6 「震源」と「震央」と「震源域」
6-7 日本の巨大地震は海底で起きる
6-8 日本にある3つの「地震製作工場」
6-9 日本と似た巨大地震は別の国でも起きる
6-10 「ナワ張り」を守って起きるプレート境界型地震
6-11 「大地震周期説」は正しいか
6-12 東海地震が起きる根拠
6-13 日本で起きた史上最大の地震
6-14 東海地震の先祖
6-15 東海地震の超巨大化説
6-16 いまそこにある「内陸直下型地震」
6-17 内陸直下型地震には繰り返しはない
6-18 東京を襲った地震
6-19 古文書に見る地震の歴史
6-20 活断層とは何だろうか
6-21 活断層と地震予知(
6章21節の図(ゲラ)

7 時代とともに新しい地震被害が生まれる
7-1 地震の被害は「進化」する
7-2 日本史上最大の被害を生んだ関東地震
7-3 関東大震災の被害を拡げた「火災旋風」
7-4 15年に一度は大地震に襲われる
7-5 阪神淡路大震災の被害は1/5で済んだ?
7-6 地震の大きさと被害は比例しない
7-7 長周期表面波による災害が発生
7-8 原子力発電所は地震が来ても大丈夫なのか(
7章8節の図(ゲラ)
7-9 液状化はどうやって起きるのか
7-10 地震被害を拡大する地盤災害
7-11 地震と津波
7-12 あらためて「震災」を考える


8 地震から生きのびる知恵
8-1 大地震は不意打ちでやって来る
8-2 地震の瞬間に心すべきこと─自宅編
8-3 地震の瞬間に心すべきこと─屋外編
8-4 地震の直後に心すべきこと
8-5 避難所で心すべきこと
8-6 今出来る地震対策─地震が来る前の用心(1)
8-7 帰宅難民にならないために─地震が来る前の用心(2)
8-8 災害伝言ダイヤル ─地震が来る前の用心(3)
8-9 地震と被害について知っておく─地震が来る前の用心(4)
8-10 耐震診断のすすめ ─地震が来る前の用心(5)
8-11 地震後の生活
8-12 火災保険の問題
8-13 地震保険の問題
8-14 裏と表の関係にある災害と恩恵


コラム
地震を経験したことがない地震学者
人間にも予知能力はあるのだろうか?
地震「学会」、日本と世界の違い
大地震は冬に起きる?
地球を突き抜けた地震波(地震波3万キロの旅)
月にも地震が起きていた
地震観測所はなぜ辺境にあるのだろうか
国際地震センター(ISC)
地震の同時発生、マルティプルショック
「人造」地震
ダムが出来ると地震が起きる
死語になる「激震」
エレベーターを「停める」ための地震計
問題を抱えた政府の「震度予測」
地震の地鳴り
大地震と火山の噴火は連動する?
地震と魚の不思議な関係
昭和新山の誕生
学者を惑わす「牧師の報告」
先史時代の地震の痕跡
地震確率にどう対応したらいいか
どんな長周期表面波が来るかは分からない
地震研究における理学と工学
津波の被害は避けられる
三陸地方に伝わるイワシと地震の関係
ハワイに旅行する人、ご用心
正しい情報をラジオで聞く
地震の名前はどうやってつける?


後書き

索引

担当編集者は友田裕一氏
(友田氏は以前、学参業界{=学習参考書業界
}におられたことがあり、その蓄積や経験の片鱗が表紙に顕れています)
秀和システム 〒107-0062 東京都港区南青山1-26-1 Tel:(03) 3470-4941 Fax:(03) 3405-7538


この本の前書き(原稿)

 日本を襲う大地震には2つのタイプがあります。海溝型と内陸直下型です。  

 海溝型は起きる場所も、起きるメカニズムも、かなり分かっている地震です。

 一方、内陸直下型は、起きるメカニズムが多様なうえ、日本のどこを襲っても不思議ではない、という厄介な地震です。直下型で起きるゆえ、地震のマグニチュードが7程度でも大被害を起こすことがあります。懸念されている東海地震は海溝型、阪神淡路大震災を起こした兵庫県南部地震は内陸直下型です。

 兵庫県南部地震なみの大きさの地震は、この本をご覧になれば分かるように、日本では毎年のように起きている地震です。いわば、ありふれた大きさの地震が、阪神という大都会を襲ったことが死者6400名余という大被害を生んでしまったと言えるでしょう。

 直下型地震が次にどこを襲うか、残念ながら、現在の学問では分かりません。

 ですが、地震がどのくらいの「震災」になってしまうかは、地震がどこを襲うか、ということできまるのです。

 じつは日本の地震予知計画は1965年に立ち上がって以来、5年ごとの計画を次々に立ち上げながら40年も続いてきています。それにしては進歩が遅いと思う人も多いでしょう。なぜ遅いのか、なにが難しいのかを、この本で書いたつもりです。

 他方、震源でなにが起きているのか、大地震はどんな舞台仕掛けのところに起きるのかといった、地震についての基礎的な研究は、それなりに進んできています。これらの研究の成果を一般の人にも知ってほしい。そして、地震をむやみに怖れるのではなくて、地震を正しく知ることによって、災害軽減にも役立つことを私は望んでいるのです。


この本の後書き(原稿)

 24万人、一説には70万人もの犠牲者を生んだ中国の唐山地震(1975年)と阪神淡路大震災(1995年)の両方を地震直後に訪れた地震学者がいます。

 といっても、唐山地震ではあまりの被害の大きさに当局が外国人の立ち入りを10年間も禁止してしまいましたから、その科学者は日本人ではありません。中国国家地震局のT先生です。

 T先生が阪神大震災を見た印象は「瓦礫(がれき)になってしまった家はあるが、ちゃんと残っている家も意外にたくさんある」というものでした。唐山地震ではまるで爆撃に遭ったようにすべての家がなぎ倒されていたそうですから、その違いが目立ったのでしょう。

 日本の家は昔よりもずっと地震に強くなってきています。しかし古い家もまだ多く残されています。阪神淡路大震災では、これらの地震に弱い古い家が倒れて亡くなった人が圧倒的に多かったのです。統計によれば死者の8割以上が老朽木造家屋の下敷きになった人たちでした。

 つまり、大地震は弱い家に住み続けなければならない人々を選択的に襲うものなのです。もし、学生の安下宿のような老朽木造家屋が新しい家に建て替えられていたり、せめて耐震の補強がされていたら、阪神大震災の犠牲者は5分の1以下に抑えられた可能性がありました。

 一方、唐山の家屋は木造ではありませんでした。しかし、煉瓦や石を積んで作った中国の一般住宅や商店は地震にはとても弱い造りなのです。これらの家がもし日本の近頃の家のような強さを持っていたら、唐山地震の犠牲者は、ずっと少なくてすんだに違いありません。

 ところで、日本では過去最大の被害を生んでしまった関東大震災(1923年)のときのほとんどの被害は住宅密集地の火災によるものでした。今度の地震でもこの悲劇が繰り返される可能性があります。

 このため、東京都は2003年から新たな対策をはじめました。東京23区のうちで危険性が高い木造住宅密集地約2400ヘクタールを選び、道路の幅を広げたり、建物の共同建て替え、個別住宅の耐震化などの支援をしています。しかし、このための予算は年額20数億円で、むしろ年々減っています。同じ東京都で、都市再開発には年間百億単位の予算が投じられているのと比べると、あまりにも少ないと言えるでしょう。

 私は地球科学者だから地震の「弁護」をするわけではありません。しかし、地震そのものはめったに人を殺さないものなのです。人間が作った構造物が人を殺すことのほうが、はるかに多いのです。

 過去の地震災害から学んでほしい、地震は人を殺さない、人間が作った物が人を殺すのだ、と地球物理学者である私は嘆くのです。

 この本が出来るまでにはいろいろな方にお世話になりました。なかでも、昔の地震についての資料は古地震学の権威である伊藤純一博士に、また阪神淡路大震災については、地元で震災を体験したジャーナリストの大牟田智佐子(毎日放送)さんと兵庫県須磨友が丘高校教諭の数越達也さんに、この本を作るに当たって多くのことを教わりました。記して感謝します。


この本の書評と紹介

東京新聞。2006年1月10日・朝刊20面(科学面)。このほか中日新聞にも、同日夕刊に、同じものが出ました。
『朝日新聞』愛知版に紹介されました(インターネット版では2006年1月25日)。
『あっぷメイツニュース』に紹介されました(2006年7月号)。(あっぷメイツニュースは『じゅにあセレクション』のネクスト社の渡辺徹氏が編集しているあっぷメイツ事務局が発行する会員機関誌)
あるブログから。「あえて言おう。高校生には、一冊ずつ配布せよ」だそうです。

この本の出版後に気がついた訂正(ミスプリント)
この本の8章から:「火災保険は地震の"あと"で出火しても支払われませんでした。そして地震保険にはいろいろな問題があります」
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