今月の写真
春を待ちこがれたレニングラード(現サンクトペテルブルグ)


 冬が長くて厳しい場所ほど、人々は春に憧れる。

 ここレニングラード(現サンクトペテルブルグ、ロシア北西部)でも、ネバ川に張りつめていた氷が溶けて流れ出す3月に、人々は春の日射しを楽しみに、河原にやってくる。

 気温は、川に流れている氷から想像がつくだろう。しかし人々にとっては長くて暗い冬との決別を喜んで、手袋もなく、明るい表情で、陽光のもとを歩きまわる。

 これは、 ここにはかぎらない。ヨーロッパ北部でも、同じように人々は春を待ちこがれて、まだ寒いのに、春を楽しみに屋外に出てくるのである。

 しかし、ロシア人にとっての春への渇望は、私の想像を超えた。

同じネバ川の別の河原では、太陽が当たって、しかも風が当たらない壁際で、正気の沙汰とは思えない風景が出現しているのである。

日光浴。そう。いくら日の光に飢えていたとしても、目の前に氷が流れている河畔で裸になるものか。

ロシアや北ヨーロッパの人たちが、夏になると大挙して南に向かう心情を、心底から理解することは私たち日本人にはむつかしい。彼らは、夏に南へ向かうために、年間の労働に耐えている、とも言えるほどなのである。

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