今月の写真
「人工呼吸器を使って維持されている」都会の自然
今回は(私が住んでいる)近くの写真です。


 私が小学校のころから親しんでいる景色のひとつである。東京都練馬(ねりま)区の西部にある石神井(しゃくじい)公園。ここには二つの池が東西にあるが、そのうち、西側にある三宝寺(さんぽうじ)池の秋景色だ。(上の写真を撮影したのは2003年11月。撮影機材は Panasonic DMC-FZ10。レンズは149mm相当)

  この池の水はすぐ東側にある「ボート池」(右下の写真)に注いで、石神井川の源流のひとつになっている。石神井川は、その後、東北東に流れて、板橋区、北区を横断し、荒川区と北区の境で、荒川に合流して、最後は東京湾に注いでいる。

(右の写真を撮影したのは2007年12月。撮影機材は Panasonic DMC-FZ20。レンズは147mm相当)

 なお、私が小学校のころ、つまり1950年代のはじめには、石神井川では、よくシジミ貝がとれた。(石神井の7kmほど下流の)江古田(えこだ)にある同級生の家に遊びに行ったときに、川に入ってシジミを採ったのを覚えている。しかし、そのはるかにあと、私が2004年に同じく下流にある国立極地研究所に勤めたときには、シジミの話は、まわりの誰も、信じてはくれなかった。すべてがコンクリートの護岸で覆われてしまった石神井川は、いまや、都会のどぶ川である。

(左の写真は2016年11月。撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは96mm相当。右の写真も2016年11月。撮影機材も同じ。レンズは80mm相当)


 この三宝寺池のすぐ南には、三宝寺と(武蔵)道場寺という二つの寺がある。左の写真は道場寺の境内の秋景色だ。ここには三重の塔がある。しかし、これは古いものではなく、1974年に建てられたものだ。

(左の写真を撮影したのは2006年11月。撮影機材は Panasonic DMC-FZ20。レンズは94mm相当。右下の三重の塔の写真は2016年11月。撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは24mm相当)

 関東平野の西部は、緩い東下がりの地形になっている。奥多摩など、西部の山地で地中にしみこんだ水は、海抜50メートルほどの高さのところで
、地表に出てきて、同じような池をいくつか作っている。

  この三宝寺池のほか、中央線の吉祥寺駅の近くにある井の頭公園の井の頭(いのかしら)池、西武新宿線の東伏見駅の近くにある武蔵関公園の富士見池、杉並区の善福寺公園にある善福寺(ぜんぷくじ)池などだ。

 しかし、ご多分にもれず、地下水の減少で、この三宝寺池も、自然の湧き水がなくなってしまった。このため、ここでは、(一般的には地下水の汲み上げは禁止されているのだが)、特別の許可を得て井戸3本を掘り、地下水を汲み上げて、かつての湧き水の代わりをさせている。

 その汲み上げ量は年々増えていて、2008年には、一日に平均4355トンにも達している。じつは、2012年9月に着工された東京外環道(東京外郭環状道路)は、この三宝寺池のすぐ西側を地下トンネルを掘って通ることになっていて、地下水への影響がいっそう、心配されている。

 この工事は世田谷−練馬間で約16キロ。関越道、中央道、東名高速を結び、総事業費は1兆2820億円といわれている。
国が地下約40メートルのところを通る深いトンネルを建設し、高速道路会社は費用の2割を負担して舗装などを受け持つことになっている。

【2016年11月に追記】その後、東京外環道の工事は着々と進んでいて、この池の北1kmあまりの所までは、いままであった住宅が一掃されてしまった。 なお、上記で「地下約40メートル」というのは、地表の地権者の同意を必要としない深さだ。2001年に新たに施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称:大深度法)によるものである。

(左の三重の塔の写真は2016年11月。撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは38mm相当)

【2017年11月に追記】11月中旬の道場寺は、黄葉が始まったところだった。

(右の写真を撮影した撮影機材はOlympus OM-D EM-5。レンズは39mm相当、F6.3, 1/100s、ISO (ASA) 200)


 これらの写真で見るかぎり、三宝寺池の景色は、桜の春(右の写真)も紅葉の秋(上の写真)も、半世紀前の私の小学校時代と変わっていない風景なのだが、いまや、この水は電気モーターを使って、人工的に維持されている「人工の風景」になってしまっている、というわけなのである。

(右の写真を撮影したのは2005年4月。撮影機材は Panasonic DMC-FZ20。レンズは99mm相当)

  この都会のささやかな自然は、いわば、人工呼吸器を使って維持されているのである。

左の写真は2015年3月。右の写真と同じところだ。

(左の写真を撮影した撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは90mm相当)


 この石神井公園では2007年夏に、はじめて、外来種の動物の捕獲調査が行われた。その結果、カミツキガメ 43匹、ミシシッピアカミミガメ 130匹、ブルーギル 44匹などが捕獲され、一方、在来種のタナゴやクチボソが激減していることが分かった。

 その意味でも、ここは昔の自然がなくなりかかっているのだ。

【追記】 2009年3月下旬。暖気が来たあと、季節はずれの冷気に覆われた関東地方では、白いコブシの花と、咲きかけた桜の花が一緒に咲いて、三宝寺池に映えていた(左写真)。

(左の写真を撮影した撮影機材は Panasonic DMC-LC70。レンズは60mm相当)


 同じく2009年3月下旬。池の隣にある道場寺では、赤と白のぼけ(木瓜)の花が満開だった(右と下の写真)。

 ぼけの原産地は中国大陸で、平安時代に日本に入ってきたといわれている。札幌では寒すぎて育たない。高さが1〜2mほどの低木である。花の大きさは2〜3センチほどのものだ

 私が子供のころは、武蔵野のあちこちにあった雑木林には、よくこのボケが咲いていた。しかし、いまは雑木林そのものが、ほとんどなくなってしまった。

 私も子供のころからぼけの花が好きだが、もっと好きな人が、こんな協会まで作っている。

 左の写真の後ろに写っているのは道場寺の鐘撞堂。

(撮影したのは2009年3月。撮影機材は Panasonic DMC-LC70。2枚ともレンズは35mm相当)


 右の写真は、2009年3月下旬、石神井川の桜。上に書いたように、3面コンクリート張りになってしまった。しかし、汚染に強い鯉が泳ぎ回っている。大きさは60 cmもある。

 桜が咲いていることだけは同じだが、1958年のときとは、まったくの様変わりだ。なお2015年春現在では、この写真の桜は河川改修で、すべてなくなってしまった。

 下の写真は2015年3月。少し下流の南田中町の石神井川。「満開」とは80%の花が開くことを言うのだそうだが、このときは写真に見られるようにつぼみも残っている。まさに「満開」の始まりなのだろう。

(右の写真を撮影したのは2009年3月。撮影機材は Panasonic DMC-LC70。レンズは77mm相当)


 この写真はオリンパスの「ボディーキャップ魚眼レンズ」で撮った。メーカーの分類では「レンズ」ではなく「アクセサリー」扱いだが、少なくとも中心部は解像力も鋭く、意外によく写る。

(2015年3月。左の写真を撮影した撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは18mm相当, F8.0)



 左の写真は 2010年11月中旬。紅葉が始まる直前の三宝寺池。この年は夏の猛暑で全国的に紅葉が遅れた。

 中央のメタセコイアの巨木は、間もなく黄色に、そして、いちばん上と二番目の写真のように、鮮やかな橙色になっていく。

左の写真を撮影した撮影機材は Panasonic DMC-G1。レンズは70mm相当、F5,5, 1/50s、ISO (ASA) 100)



 そして2010年11月末。例年よりも遅れたが、メタセコイアの巨木は、鮮やかな橙色になった。

(右の写真を撮影した撮影機材は Panasonic DMC-G1。レンズは90mm相当、F6.3, 1/250s、ISO (ASA) 100)


【2017年11月に追記】 二つ上の写真と同じ場所だが、三宝寺池の水面が見えている。メタセコイアは、これから黄葉するところだ。

写真を撮影した撮影機材はOlympus OM-D EM-5。レンズは40mm相当、F5.8, 1/80s、ISO (ASA) 250)


 右の写真は、いちばん上の写真と同じ、三宝寺池にある「厳島神社」、といっても見られるとおり、とても小さい神社だ。2015年3月、桜の満開の時期に。

(写真を撮影した撮影機材は Olympus OM-D E-M5。レンズは122mm相当)


 この図は、近くに2010年の春に出来た「練馬区ふるさと文化館」に展示してある戦前の「武蔵野電車沿線整理地鳥瞰図」から、その一部。

 なお、武蔵野電車は、いまの西武池袋線である。


 右は、同じ展示から、やはり戦前の「東京郊外電車回遊図絵」から、その一部。

 武蔵野線(現・西武池袋線)の池袋から所沢までには、豊島園と石神井公園と、所沢飛行場しかない。当時、東京圏では珍しかった「三宝寺プール」というものがあった。

 なお、この路線図には「西武鉄道」(いまの西武新宿線、橙色)と武蔵野鉄道(青色)が別のものとして描かれている。

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