今月の写真
海から何かが上がってきたら地震の前兆なのでしょうか


2014年4月29日現在、「オランダ クジラ」でインターネット検索すると、上のほうには3月31日にオランダ・ハーグの国際司法裁判所での「日本の南極海での調査捕鯨は「調査」ではなくて「商業捕鯨」だからやめるべきだ」という記事ばかりがリストアップされる。

だが「オランダ クジラ」で私が思い出すのは、かつてオランダで見たこのクジラの絵だ。これは地震の前兆かもしれない凶事の絵物語だ。この説明はあとにしよう。

ところで、このところ、日本各地で深海魚が上がってきたという話題が多い。ダイオウイカという巨大なイカが沿岸の浅い海に仕掛けてある定置網にかかったことが、鳥取や新潟など日本海岸の各地や神奈川県横須賀などあちこちで報じられている。ダイオウイカは200メートル以下の深海に住む、長さが4-10メートルもあるイカで、いままで生きた姿が見られることはほどんとなく、生態も分かっていなかった。

それだけではない。高知県の室戸岬では、2014年4月22日にホテイエソという深海魚が、一挙に105匹も定置網にかかった。地元の漁師にとっても初めての経験だという。この魚は、ダイオウイカよりももっと生態が分かっていない深海魚で、ぬらぬらした不気味な黒い体に鋭い歯を見せ、笑ったような不気味な顔が特徴的な怪魚だ。下顎のひげの先には発光器が付いている。

このように、珍しい魚が上がってくると、かならず、これは地震の前兆では・・という噂が出る。その種の話でいちばん話題性があるのはリュウグウノツカイという深海魚だ。長いものは5メートルを超えるほどの大きな怪魚で、日本でもときどき、そして米国カリフォルニアで2013年に見つかるなど、上がったときは必ず話題になるほどの珍しい魚だ。右の写真は、そのリュウグウノツカイ。ドイツ・ブレーメン市にある海洋博物館にある剥製を撮った。なお、このリュウグウノツカイはその奇怪な形と知られていない生態から
深海魚の代表のような魚で、私の著書『深海にもぐる』でも、本の記述にはないのに、イラストレーターの深海のイメージに合うということで表紙の絵に使われた。

いまはインターネットの時代だから、待ちかまえていたように、この種の噂が拡がることになる。


じつは、海から珍しいものが上がってきたときに、これは地震の前兆かも、という話は日本だけではない。また近年のことだけではない。

学問的には、地震の予兆かどうかは、まったくわかっていない。この種の海洋生物の異変は「ときどき」起きることで、別の原因から「ときどき」起きる地震と、何の因果関係もなくても。たまたま相前後することはありうることなのだ。また、「錯誤相関」の可能性も心理学者から指摘されている。

あるいは、海中は100メートルも潜ると太陽の光が届かない世界なので、それより深い海に住む魚は、眼を使ってエサを探すわけにはいかない。このため、エサになる小動物が生きていることで発生するごく弱い電界を検知してエサをとる。

たとえば海洋生物ではないがナマズは、眼が弱いが、この種の電位を感じる鋭いセンサーを持っていて、夜にエサをとる。

なお、人間も弱い電界を作っている。心電図や脳波を調べられるのは、この人間が作っている電界を体外で測っているのである。

このため、一部の地震学者が主張しているように、「地震の前に微弱な電流が震源近くの海底を流れ」れば、これらの海洋生物が異変として感じる可能性は、ないわけではない。

この写真はオランダのアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)が所蔵する、17世紀のオランダの絵だ。オランダの海岸に、珍しくクジラが打ち上がった騒ぎを描いている。この美術館は17世紀オランダ絵画が充実していることで知られている美術館だ。2004年から大改装をしていたが、2013年に新規開館した。

またこの美術館はアムステルダム空港に「分室」があって、小さな分室ながら、そこで絵などの所蔵美術品が展示されている。入場は無料だ。日本の空港は売らんかなの商業施設や浅薄な娯楽施設ばかりでこんなものはないから、羨ましい。私が訪れたときは「レンブラント(一派)と動物の絵」という展示をやっていた。

この絵は1601年12月に、オランダ、Beverwijk(申し訳ありませんがオランダ語は読めません)の海岸に死んで打ち上がったクジラ(マッコウクジラ)を見るために、国王をはじめ、わざわざ全国から人々が集まったのを、Jan Saenredam (1565-1607。これも読めません)が1602年に描いたものだ。 411 × 597 mmの大きさである。

人々がこのように物見高いのは、この種の「事件」が凶事の前触れだと、17世紀のオランダでは信じられていたからだ。凶事とは、地震や伝染病の流行などだ。また日食や月食も当時は凶事と考えられていた。この絵の上のほうに、これらの凶事も描かれている。つまり、これは絵物語なのである。

絵の右のほうには訪れた国王とそのお供も描かれている。また左の方、クジラの頭の手前には、この光景を描く画家の自画像も描かれている。描きかけの絵を風から守るために、マントを拡げて貰っている。

これはエッチングで、右の部分拡大写真のように、じつに細かい。濃淡は銅板にエッチングされた細線の密度で表現されている。たいへんな細密画なのである。なお、絵の上部に、別の二匹のクジラが描かれている。

(オランダ・アムステルダムのスキポール空港の国立美術館分室で2004年に撮影。撮影機材はPanasonic DMC-FZ10。F2.8, 1/15s, ISO200。カメラを絵の中央部の高さには構えられなかったために、その後2014年にRAW現像ソフトで「上下シフト」で補正。なお空港の分室での展示は定期的に変更されている。リュウグウノツカイはドイツ・ブレーメン市の海洋博物館で2004年に撮影)


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