島村英紀 『人はなぜ御用学者になるのか--地震と原発』

「前書き」と「目次」

『人はなぜ御用学者になるのか--地震と原発』 2013年7月25日発行予定。花伝社
本文251頁。四六版ソフトカバー。ISBN978-4-7634-0671-2 C0036。
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 この本の前書き

 地震をはじめ、火山噴火、台風、津波、水害、地すべり、豪雪と日本は自然災害の多い国だ。昔から日本人は災害に苦しめられ、災害とともに生きてきた。

 そして、東日本大震災(2011年)では二万名近い人命が失われた。被災地はまだ復旧にはほど遠い。

 被災した人々の心の傷や全国の人々の精神的な衝撃を逆撫でするようで気がひけるのだが、地球物理学者として私が言えることは、東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震は、世界でも最大の地震ではない。環太平洋のあちこちで、この大きさの地震はこの半世紀に五回も起きてきたし、これからも起きないことはない。残念ながらいまの学問では、次に日本のどこを、どのくらいの地震が襲うかはわからない。

 さて、現代に生きる私たちは地震のような自然災害をどうとらえ、どうともに生きなければならないのだろうか。

 これはもちろん一人一人が考えるべき問題ではある。しかし、ともに考えたり、それを助けるために、広い意味の文化があるのだと思う。広い意味の文化には哲学や、宗教や、科学も含まれる。それぞれの役割も影響も違うはずだが、この本では科学の面からこの問題を考えてみたい。

 いろいろな意味で科学が問われている時代だ。

 科学は、たとえば芸術と同じように、それを理解し支えてくれる社会の一部、つまり広範で総合的な文化の不可分の一部のはずである。一般の人も科学者も、科学と文化、科学と社会についてはもっと考えるべきであろう。

 科学者は予言者でも宗教家でもない。科学者は、それぞれの専門の領域では専門家だが、その成果を材料にして考えるのは科学者だけの役割ではない。科学者が得てくれた材料に基づいて考えるのは、科学者以外の人たち、広く言えば文化の役割なのである。

 私がいままで著書で訴えてきたことは、地球科学者として、現代の地球科学の前線で、どんな研究が行われていてどのくらいわかっているのか、まだなにがわかっていないのかを皆さんにも知ってほしい、また、地球の将来を考えるときには、現代の地球科学の前線を知って考えてほしいということだった。

 それが、地球の将来を考えて行動する人類の知恵の広がりをつくるものだし、ひるがえって学問の底辺を広げることによって、学問自身にも役立つものだと思う。

 この本は、最近のいろいろな事例に即して、科学と社会の問題を考えてほしくて書いた。また、科学者とはどんな人間なのか、そしてなぜ、簡単に国策になびいてしまうのか、その弱さとその理由も知ってほしい。


 この本の目次

まえがき 9

序章 人はなぜ御用学者になるのか 13

1章 地震と科学者 19
1 イタリアの地震予知裁判──他人事ではない日本の体質 19
地震予知失敗で禁錮六年──伊地裁、学者ら七人実刑 19
無責任で勝手な科学数値の利用 24
▼▼コラム 地震の名前 33
2 続発する「政府の想定外」の地震 35
3 地震予知五〇年、一度も成功せず 37
4 津波警報の問題点 41
津波警報は「オオカミ少年」 41
津波警報は二〇〇三年に、すでに「オオカミ少年」!? 43
東北地方太平洋沖地震の津波警報はオオカミ少年の証拠 46
小さすぎた津波警報が被害を拡げたのでは? 47
「津波の実況」は安心情報として受けとられた 50
5 防潮堤を過信していなかったか 53
津波予報の「改善」後の問題点 55
6 気象庁の緊急地震速報のまやかし 57
緊急地震速報の登場 57
気象庁のお役人の天下り先を開拓 60
緊急地震速報のミス 62
東日本大震災以後の緊急地震速報 65
「携帯電話向け」緊急地震速報にも問題が 67
「一般向け」緊急地震速報にはもっと問題が 69
緊急地震速報は地震予知の代わりにはならない 70
7 地震情報とその伝えかた 71
「つまみ食い」で利用される地震学 71
危うい巨大地震予測 74

2章 地震と原発 77
1 福島原発で東北地方太平洋沖地震のときになにが起こったのか 77
消えた「想定外」とする目論見 77
五つの事故調査委員会 79
いままで記録したことのないほどの地震加速度 82
新潟中越沖地震で壊れてしまった柏崎刈羽原発 85
2 いままで原発が作られて来たときの「基準」 86
原発を作ってきた「指針」とは 86
活断層の「松田の式」の誤用 88
「活断層だけの土俵」でいいのだろうか 91
最近の大地震はすべてマークされていなかったところで 93
成り立ちから見ても活断層が多い日本列島 95
活断層の精査にはトレンチ法、しかし問題も 97
活断層で起きる地震だけが決して次の大地震ではない 99
日本列島に起きる地震には二種類 101
海溝型地震は繰り返す 106
内陸直下型地震はどこを襲うか分からない 109
信用できない地震の危険度 112
3 いままで原発が作られて来たときに地震学はどのように利用されてきたのか 114
4 原発事情は日本だけではない 117

3章 科学と政治の舞台裏 121
1 工業活動が公害を引きおこした──水俣病を隠蔽したチッソ 121
2 政府の悪あがきの果てに 127
3 その昔の大気汚染と水質汚染、そしていま 133
騙し続けた企業と協力した御用学者 136
4 「地球温暖化」をめぐる国際政治と巨大産業の思惑 138
「科学」よりも政治に動かされるようになったIPCCの変質 138
地球温暖化問題は「科学」よりも国際政治の問題へ 141

4章 巨大科学と社会の危うい関係 147
1 科学者と社会 147
2 科学者とマスメディア 151
記者クラブと科学者の関係 151
敵=マスメディアを知るために 154
3 日本の自動車技術「神話」をあばく 157
4 「いかがわしさ」漂わせ始めた近代科学 161
5 社会は「危険な科学」を規制できるのか 163
▼▼コラム 科学者の「五年」、行政の「一年」 165
6  巨大科学の「宿命」に失望した科学者 167

5章 科学者の孤独 173
1 科学者も人間 173
ノーベル賞も策を弄して分捕る? 173
理学と工学のちがい 175
科学を廻すハツカネズミ 178
2 地震研究の最前線と冒険譚 181
私たちの科学、海底地震計 181
朝起きたら消えていたデータ 186
学会誌競争もなかなか激しい 189
学会誌編集長B氏の周到な陰謀  190
ハイジャックされた特集号  192
学会誌編集長B氏の前科  194
日の目を見なかった論文  196
盗まれた海底地震計  197
3 「地球の新説」に挑む南極科学者の哀愁 198
来年がないポーランド 200
水深二〇〇〇メートルまでしか測れない! 202
隊長の迷い、副隊長の葛藤 206
心理テストを超えた世界 208
「塀の中」の心模様 210
少数派科学者のスタート台 213
目鼻をつけるまでに五、六年 218
南極の国際事情 222
南極領有の「先兵」としての科学者 225

6章 警告はなぜ生かされなかったのか 229
1 関東大震災を予測した地震学者・今村明恒の悲運 229
今村の地震災害への警告 230
上司大森教授が火消しに奔走 233
今村の警告した関東大地震の発生 235
今村の信念 237
地震とマスメディア 241
2 スマトラ沖地震──大津波・先住民・伝承した知恵 243

あとがき 249


2013年8月5日に長周新聞に好意的な紹介と書評が出ました(その記事は)(なお、字が小さすぎて読めない方は、二つに分割してあって読みにくいでしょうが、こちらこちらへ)
インターネットに好意的な書評が出ました。


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