朝日新聞1998年6月22日朝刊・社会面「ひと」欄

ポーランド科学アカデミーの会員になった島村英紀さん

「大好きなショパンの国との親交に努めたい」

 東京・赤坂の大使公邸で開かれた授与式で、勉強中のポーランド語も交えてあいさつした。海底地震が専門の北海道大教授で、地球科学分野からは初めて日本人の科学アカデミー外国人会員になった。

 話は一九八九年にさかのぼる。当時、ワルシャワ大などが続けていた南極の地震探査に協力を依頼された。陸上の地震計では、ほしいデータが得られないため、白羽の矢がたった。

 二年後に共同研究を始め、直径約40センチ、重さ約60キロの手作りの海底地震計を9台、ポーランド基地近くの海底に置いた。人工地震を起こして観測を続け、海底の地殻が引っ張られて薄くなり、新しい海が広がりつつあるのを突き止めた。

 大学院時代、海の大山脈といわれる海嶺で海底は生まれ、両側に広がっていき、やがて大洋の端にある海溝でもぐっていく、という海洋底拡大説が認められ始めていた。

「地球の中をひもとく『かぎ』は海底にある」と直感し、恩師の浅田敏・東京大名誉教授と海底地震計をつくった。鳥取沖で初観測して以来、今年で三十年になる。

 台風で地震計が流されるなど、失敗は数えきれない。しかし、思わぬ楽しみもある。

「海底地震計は、クジラの鳴き声や海底の生物が動く音も記録しているんです」

 七月から、北緯78度のノルウェー領の島に行く。「北極海で新しい海底をつくっている地殻変動が、大陸をはさんだ日本海で岩板同士をぶつからせ、1993年の北海道南西沖地震などを起こしたという説がある。それを検証するのが目的です」。ポーランドの学者も同行する。

 キュリー夫人を生み、「国民が自国の科学と文化に誇りを持っている」と尊敬する国との縁は、ますます深まりそうだ。

車の整備が趣味。「休日は真っ黒になってます」56歳。

文・写真 五十嵐 道子

【ポーランド科学アカデミー外国人会員になった経緯】

 最初の知らせは1997年6月4日付けの、ポーランド科学アカデミー総裁Leszek Kuznicki氏からの手紙であった。それによれば、1997年5月22日にワルシャワで開かれたポーランド科学アカデミー総会で、島村英紀がポーランド科学アカデミー外国人会員に選ばれた、おめでとう、というものであった。

 その手紙には、diploma(証書)とバッジを、在日ポーランド大使館で手渡す、その知らせは大使館から行く、と書いてあった。

 1998年5月27日に東京・赤坂にある在日ポーランド大使公邸で、授与式があり、大使Jerzy Pomlanowski氏から上記のdiploma(証書)とバッジ(=下の写真)を受け取った。島村英紀の1990年の南極での日本-ポーランドの共同海底地震観測の成功をたたえ、また長年にわたるポーランドとの研究協力もたたえられた。

 授与式には、佐藤禎一文部事務次官と井上明俊(文部省学術国際局)学術課長も参列した。また、私の先輩(横山泉北海道大学名誉教授・学士院会員、浅田敏東海大教授・東大名誉教授、秋本俊一東大名誉教授・学士院会員、佐藤良輔東大名誉教授)や同輩(北大からは渡辺暉夫地球惑星科学教室主任、山本哲生地球惑星科学科教授など)、後輩(藤井直之名古屋大学理学部地震火山研究観測センター長、吉田明夫気象庁地震情報課長、鈴木保典理学博士など)も来て下さった。また、各種の珍しいポーランド料理も振る舞われた。なお、大使館が建て直し中なので、授与式が遅くなった、申し訳ないという説明も受けた。

ポーランド科学アカデミーのバッジ

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