島村英紀・『指評』「「日本の地震予知」 大震法延命は誤り」2018年1月。共同通信配信で各地の新聞に掲載
『東奥日報』2018年1月5日(金曜)朝刊、『高知新聞』2018年1月7日(日曜)朝刊、『山梨日日新聞』2018年1月9日(火曜)朝刊、『山形新聞』2018年1月11日(木曜)朝刊、『岐阜新聞』2018年1月14日(日曜)朝刊、『北海道新聞』1月20日(土曜)朝刊など。{1100字}
共同通信の担当者からは「あいかわらず、掲載率は高かったです」という通知が来ています。
「日本の地震予知」 大震法延命は誤り 前兆検知は科学的に不可能
(新聞社によっては見出しが違います。たとえば北海道新聞『各自核論』は「地震予知の大転換 大震法延命はまやかし」)
昨年秋、政府が白旗を揚げた。地震予知ができないことを明らかにせざるを得なくなったのだ。地震予知研究は国家計画として始まった1965年から続いているが、この間一度も地震予知に成功していなかった。地震予知は可能だという前提で進んできた日本の防災体制が大転換したのである。
だがこの転換でも問題が残った。1978年につくられた大規模地震対策特別措置法(大震法)は廃止されなかったのだ。
政府は「地震予知はできない。大震法を運用するのは難しい」とする一方で、「前震や地殻変動などの異常現象に基づいて住民に避難を促す情報を出す新たな対策」の委員会を立ち上げた。そして、大震法で作られた東海地震判定会の委員がそのまま居座った「評価検討会」が作られて活動を始めている。
この延命策は、もちろん役所や研究者の利権を守るためだ。大震法のおかげで多くの役職が増え、研究費も増えた。また、阪神淡路大震災や東日本大震災の後には飛躍的に予算が増えた。これらの既得権益を失いたくないというのが、政府や科学者の共通の願望なのである。
つまり大震法の枠組みはそのまま延命させられたことになる。
それでは何か前兆のようなものがあって、いったん避難を促したあと、すぐに大地震が来なかったらどうするのか。 経済的にも人心にも打撃が大きい避難を何日も続けるわけにはいくまい。
その警告を取り消せる科学的な根拠や方程式は何もない。
こうして気象庁や地震学者が、迷いながらでも、渋々でも、警告の解除を行うだろう。
しかしその後で大地震が襲ってきたら…。そこでは悲劇が起きるに違いない。
評価検討会が根拠としているのは南海トラフの震源域の東側でマグニチュード(M)8級の地震が発生した場合、連動して西側でもM8級が3日以内に発生する可能性は96回のうち10回あったとしていることだ。
だが、続発しなかった例は9割もある。そもそも96回のうち10回とは、1900年以後に起きた地震を世界中で数えているものだ。しかも、南海トラフ地震のような海溝型地震だけではなく、それとは起きる場所もメカニズムもまったく異なる内陸直下型地震も含めている。それゆえ、南海トラフ地震にあてはまるかどうかは未知数なのだ。
南海トラフ沿いでは、過去たびたびM8クラスの地震が発生してきた。しかし、次の大地震が安政地震(1854年)のように32時間後に起きるのか、東南海地震(1944 年)と南海地震(1946年)のように数年の余裕があるのか、または宝永地震(1707年)のようにずっと起きないのかは分からない。
つまり、この延命策は科学的にはまやかしなのである。世界的に見ても巨大地震につながる前震や地殻変動が大地震の前に見つかったことはない。
まやかしを続けることは、人々に間違った印象を広めてしまうことになる。既得権益のために、科学の現状を無視すべきではないだろう。
この記事は
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆4:「地球物理の観点欠く経産省の核のごみマップ」2017年9月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆3:「静穏期への過信は危険 原発に地震や噴火のリスク」2017年5月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆2:「人間が起こした地震 シェールガスのリスクに目を」2016年10月
●共同通信配信の『現論』過去の島村英紀の執筆1:「熊本地震は内陸直下型 どこでも起こる可能性」2016年5月